いつも出てくるテーマ「ロボットは職を奪うか?」(イベント・レポート)

4月11日午後、ビジネス情報サイト「Xconomy」の主催によるロボット会議『職場を変えるロボット(Robots Remake the Workplace)』が開かれた。

この会議のテーマの背景にあるのは、ロボットがアメリカの職を奪っていくのではないかという世間の疑問に対する回答を探ろうという意図である。アメリカでは、90年代後半から顕著になった製造のアウトソーシングによって、中国やインドに職を奪われて失業者が増え、加えて製造業がこの国からなくなりつつあることに対する危惧がある。ロボットがそれをさらにダメ押しするのではないかと怖れられているのだ。

参加者は、産業ロボット、医療関連ロボット、テレプレゼンス・ロボットなどの開発者、そしてロボットに投資するベンチャーキャピタル会社など、現在のアメリカのロボット業界を代表する顔ぶれが揃った。

参加者の多くが口にしたのは、今年1月に人気テレビ番組『60 Minutes』(ビデオはここから)で放映されたロボット特集である。この番組のトーンは、いずれロボットがアメリカの労働者に取って替わるだろうという暗い予想に終始している。参加者の中には番組中でインタビューを受けた面々も含まれているが、取材中はそんなことになるとは予想していなかった模様。一般大衆にこうしたロボットのネガティブなイメージが広まってしまうのは非常に残念だ、という口々に述べていた。

とは言うものの、ではロボットは本当に労働を奪うものではないのか、あるいはアメリカに製造業を取り戻す契機となるのかという問いに対しては、誰もはっきりした回答を持ち合わせていない。それよりもこの会議で目立ったのは、ロボットの役割をユニークな方法で再定義しようとする姿勢だった。

リシンク・ロボティクス社創設者でCTOのロドニー・ブルックス氏は、「工場作業員を補強(オーグメント)するロボット」という表現で、同社製品のバクスター(Baxter )を紹介した。

バクスターの説明をするブルックス氏

バクスターの説明をするブルックス氏

バクスターは人のそばにいても安全というのが謳い文句(リシンク社のサイトより)

バクスターは、2本のアームが個別にプログラムでき、単純な繰り返し作業を行うロボットで、コンピュータビジョンやセンサー、AIなどを統合することによって、工場で人がすぐそばにいても安全という触れ込みだ。複雑なプログラミングも不要で、工場作業員が短時間で利用をマスターできる。今よく人々の口に上る「並んで一緒に仕事ができる」ロボットの先駆けとして注目を集めている。

「現在、アメリカの典型的な工場作業員は高齢化が進んでいる。そうした彼らが、工場作業員からロボット・トレーナーになるということが、これからアメリカで起こること」とブルックス氏は言う。また同氏は、アメリカの工場作業員は、自分の子供たちには工場で働いて欲しくないと思っており、また中国のような製造業を請け負ってきた国々でも、若者のピーク説が出ているため、今後工場作業員を雇い入れることはますます困難になると説明する。バックスターはそうした労働力の穴埋めになるというわけだ。バクスターは、現在毎日1〜2台のペースで出荷している模様だ。

病院施設に運搬ロボットを提供するエシオン社CEOのアルド・ジニ氏は、「人間がやりたがらない仕事をロボットが代わりに行う」と言う。同社の製品タグ・ロボットは、病院内で患者の元へ薬を運んだり、食事、シーツ、破棄用医療用品などを運搬したりする自律運行ロボットである。通路では人を避け、エレベーターの乗降もこなす。

タグを利用するための訓練は10分もあれば十分という簡単さで、行き先を指定するのはタブレット状の入力装置でタップするだけだ。現在400台以上が130の病院で稼働中という。入院患者の満足度、院内作業員の安全性、効率性、コストなどさまざまな面で、病院のクオリティーを向上させるのにタグが役立つと、ジニ氏は強調する。

レッドウッド・ロボティクス社共同創設者でCTOのアーロン・エジンガー氏は、「ロボットという表現は悪い印象を与えるので、お助けマシーン(assist machine)」と呼び変えるべきだ」と語った。ロボットは人間が抱える問題を解決し、製造現場にロボットが入っていくことで、返って新しい仕事が生まれ、労働力をポジティブな方向へ導くはずと見る。

同社は、メカ・ロボティックス、ウィロー・ガレージ、SRI(スタンフォード・リサーチ・インスティテュート)のジョイントベンチャーとして2年前に創設され、低価格の家庭用、産業用ロボットアームを開発中とされる。

さて、そうしたアメリカの職に対するコメントはあったものの、会議全体はいかに新しいロボットが生まれ続けているかというところに重心があり、またそこが最も興味深いものだった。結局のところ、この会議の参加者は経済の専門家ではなく、ロボットの開発者なのだから、それも当然のことだろう。

「意外な職場のロボットたち」と名付けられたセッションでは、こんなところにもロボットが進出しているのかと驚くような実例が発表された。

レストレーション・ロボティクス社の製品は、頭皮の状態を高解像度画像で分析しながら自動植毛を行うロボット。ハーヴェスト・オートメーション社の製品は、鉢植え植物の移動や刈り込み、農薬投入などを行うロボットだ。

さらに、キューボティクス社は、レール上を自動走行するソーラートラッキングシステムを開発し、太陽光の方向に合わせてソーラーパネルの向きを継続的に変え続けるしくみで、太陽発電コストを大幅に下げようとしている。

既述したエシオン社の運搬ロボット以外にも、これから病院でよく見かけることになりそうなのが、インタッチ・ヘルス社の遠隔医療ロボットである。

2002年に創設された同社は、遠隔医療関連のハードウェアおよびソフトウェアを開発してきた。2012年にはアイロボット社からも資金を受け、同社の技術プラットフォームを利用した各種のロボットのナビゲーションや操作ステーション、サービスを開発している。RP-VITAは、今年1月にFDA(連邦食品衣料品局)の認可も受けた。そのRP-VITAを介してこの会議に遠隔参加したアイロボット社CEOのコリン・アングル氏は、こうしたロボットによって「ビデオ会議システムにはない、医者と患者間の親密な関係性が作れる」と語った。

RP-VITAで遠隔参加するアングル氏。聴衆の前で動き回って,存在感をアピールした

RP-VITAで会議に遠隔参加するアングル氏。聴衆の前で動き回って,存在感をアピール

アングル氏の発表中、RP-VITAは会場内を動き回ったりスクリーンを見上げたりなど、人間のふるまいに似た動きを見せて、会場をなごませた。RP-VITAは人間のかたちにはほど遠いものの、スクリーンが回転して視線の方向を表現するだけで、「まるで人のようだ」と感じさせる。上述のバクスターも同じように、そばに近づいてくる作業員を感知してスクリーンの顔をそちらに向けるようだ。

RP-VITAはiPadからの操作が可能で、聴診器や受話器などを内蔵し、また超音波測定器などの機器に接続することも可能だ。現実の医師に代わって病院内を回診でき、その際には呼び出したカルテを参照しながら患者に診察できる。

「医療の核は、必要な時に適切な医師がその場に居合わせること。遠隔医療はそれを可能にする」と、アングル氏は強調した。アメリカでは、農村部や過疎地域住民の医療へのアクセスが問題になっている。遠隔医療技術は、その面でも大きな貢献をするはずだ。

会議の最後のセッションには、ロボット分野に投資するまだ数少ないベンチャーキャピタリストである、スティーブ・ジャーベットソン氏と、ベインキャピタル・ベンチャーズのエイジェイ・アガーワル氏が登壇した。

アガーワル氏によると、ボストンではすでにロボット開発のエコシステムが構築されているという。同氏のポートフォリオ会社のひとつ、キバ・システムズ社は昨年アマゾンによる買収が発表されたが、シリコンバレーでは資金を受けることができなかったという。

アガワール氏(左)とジャーベットソン氏(中)。右は会議の司会を務めたXconomyのウェイド・ルーシュ氏

アガワール氏(左)とジャーベットソン氏(中)。右は会議の司会を務めたXconomyのウェイド・ルーシュ氏

同氏は、産業用ロボット開発は、個々のハードウェアよりも、スケーラブル(拡張可能)なシステムであることが重要で、ソフトウェア面での革新が大きな成長分野だと見ており、キバ・システムズ社はその両方を備えていたことが強みだったと語る。さらに、ロボットはコストをカットするよりも、「収入を加速化する」役割を果たしており、そして農業やマッピングなどに見られるように、データを収集する機能が今後重要になると見ている。

ジャーベトソン氏は、シリコンバレーのベンチャーキャピタル会社もロボットへの投資についてはボストンに追いつきつつあると言う。最近よく売り込みを受けるのは、スマートフォンやタブレットを利用したロボットで、頭脳部分をそれで代替させ、ソフトウェアで勝負をかけるようなタイプだという。

同氏は、投資資金も大きい大掛かりなロボット開発から、コストも小さいロボットへの移行が見られ、より家庭に近い存在になって「ロボットの民主化」が進んでいると語る。やはり、今後の戦場はソフトウェアであるという点では、アガーワル氏と意見が一致した。

ところで、冒頭に登場したロドニー・ブルックス氏は、未来の製造業の構想も披露した。それによると、メーカーが垂直型に製品の発案から製造、流通、小売までを手がけるのではなく、製品のアイデアは流通企業に売却され、その流通企業が全米各地の製造拠点で生産、そして小売などを通して消費者に売るというのが製造業の新しいビジネスモデルだという。

ただその場合でも、アメリカに製造業を取り返すには工作機械自体が必要で、工作機械を中国に頼る現状では不可能とのこと。もし新事業を探しているのならば、「自分だったら、工作機械に進出する」とまで言った。