「日本人はロボットのアーリー・アダプターになる」。SRIロボティクス・プログラム・ディレクター リチャード・マホーニー氏インタビュー

SRI(スタンフォード・リサーチインスティテュート)インターナショナルは、政府機関や企業から受託して、先端技術に関わる研究開発やそのサポートを行う非営利組織である。シリコンバレーのメンロパーク市に拠点を持ち、研究開発内容は生物科学、医学、宇宙工学、素材産業、情報システム、コンピュータ科学、環境科学など多岐にわたっている。

ことに、ロボット開発の歴史は長く、現在もエンジニアリングR&D部門のロボティクス・プログラムに引き継がれている。有名な手術ロボットであるダ・ヴィンチが最初に開発されたのもここで、インテューイティブ・サージカル社は50社以上もあるSRIのスピンアウトのひとつである。

シリコンバレーのロボット業界の中心人物のひとり、SRIロボティクス・プログラムのディレクター、リチャード・マホーニー氏に、ロボニュースがインタビューした。

SRIロボティクス・プログラムのディレクター リチャード(リッチ)・マホーニー氏

SRIロボティクス・プログラムのディレクター リチャード(リッチ)・マホーニー氏

Q. アメリカのロボット産業が活気を帯びてきていますが、現在のロボットをどう分類しますか?

A. 基本的には、よく言われるような「ニュー・ロボティクス」と「オールド・ロボティクス」という分け方がぴったりときます。これまでのオールド・ロボティクスと比べて、ニュー・ロボティクスは作るコストも低く、プログラムやアプリケーションの面でアクセスしやすく、それでいて同等のパフォーマンスを実現するタイプのものです。人間のそばにいることを前提としており、安全性に留意したフィーチャーも備えています。

Q. 工場で人と並んで作業するリシンク・ロボティクス社のバクスターのようなものですね。

A. そうです。パーソナル・コンピュータが歩んだ道のりにたとえると、大企業しか使えなかったメインフレームから、他の企業へ製品やサービスが提供されるB2B段階を経て、一般消費者向けのパソコンが生まれた。そこまで来ると、アントレプレナー(起業家)やホビイストたちが集まってきて、これまでにない利用方法を開発するようになる。それで言うとロボットは今、ちょうどB2B段階に進んだところです。

Q. B2Bでは、製造現場で利用されているものの他にはどんなロボットがあるのでしょうか。

A. 流通や倉庫などで使われているロボット、農業で使われるGPSナビゲーション機能を搭載した耕作用などのロボット類、医療関連でのリハビリ用ロボットや、ダ・ヴィンチのような手術ロボット、インタッチ・ヘルス社の製品のようなテレプレゼンス・ロボットがあります。家庭ではなくビジネスで使われているという点では変わりありませんが、コストは下がり、プログラムも簡単になっています。また、作業を効率的に行うという以外に、安全性などのバリューを提供する。たとえば農業ロボットが農薬散布を行えば、人への害は最小限に食い止められます。

Q. 一般消費者市場向けにも、最近は小さなロボットが買えるようになっています。

A. 一般消費者市場は今、出現し始めたところです。一方にはホビイスト向けのエンターテインメント用ロボットがあり、他方には掃除ロボットのルーンバのようなロボットを作る会社がたくさん出てきています。一定の機能を自律的にこなしますが、家庭用ロボットと呼べるほど汎用的ではありません。

Q. 現在、ロボット業界に見られるトレンドは何ですか。

A. ふたつあるでしょう。ひとつは、ロボットを可能にするテクノロジーのエコシステムが生成されつつあり、それがまた新しい開発を促すという流れができ始めていることです。たとえば、センサーやネットワーク技術、モビリティー(可動性)、テレプレゼンスといったような分野にそれが見られます。もうひとつは、マニピューレーター技術における進展です。これまでの可動型ロボットにはスクリーンがあっても、アームがなかった。アームはロボットにとっては大きな進歩です。ハードウェア要素が意味ある方法で統合された上、消費者レベルの価格にならなくてはいけない。また、消費者が買いたいと思えるようなバリューも提供しなければなりません。そこを目指している。

Q. たとえば、バクスターは2万2000ドルからと価格が安いことが売りですが、比較的単純な作業しかできません。B2B分野では、こうした単純作業型のロボットがビジネスとして成功していくのでしょうか。

A.  それを判断するのは、また時期尚早です。バクスターも生まれたばかりですから。ただ、当初は単純作業しかしなくても、2年、5年と時間を経るに従ってもっと複雑な作業もこなすようになり、用途も広がって、究極的には汎用的なロボットになることでしょう。ただ、バクスターが、業界に向けてソフトウェアをオープンにするようなビジネスモデルを目論んでいるのかどうかは不明です。もしそうなれば、大きな開発の波を誘発することができるはずです。

Q. SRIも出資しているレッドウッド・ロボティクス社はどうですか。バクスターと競合するような市場に向けてロボットを開発しているのでしょうか。

A. 似たような市場を目指していることは確かですが、展望が異なります。レッドウッドは、アームという部品技術を提供する企業になるかもしれません。

Q. ロボット技術の標準化への動きは活発化しているのでしょうか。

A. 標準化は元来、市場主導型で進むべきものです。そして市場は、そこへ参加する企業が増え、安定したエコシステムが生まれてこそ成立します。その意味では、まだロボット産業全体に対して標準化を図るのは早すぎる。無人航空機の分野でようやく、安全性に対する標準化が議論されるようになったくらいです。

Q. 日本のロボット業界では、従来アンドロイド型ロボット開発が中心を占めてきました。日本のロボット開発の現状については、どう思いますか。

A. まずお断りしておきたいのは、私は日本のロボットの専門家ではないということです。ですから、非常に一般的な意見しか言えません。その上でと限定した上で述べると、ヒューマノイド型ロボットというのは「詩」を作るようなものだと思います。つまり、ある考えを言葉で表現するのが詩であるように、人間が何かをロボットで表現する。人間のように振る舞い、人間のように見える。ただ、究極的な用途が何なのかがわからないのです。本当に人間と同じものを作るには、50年はかかるでしょう。

Q. 人間の「何を」実現しようとしているのかがわからない、ということでしょうか。

A. その意味で面白いのは、今年から来年にわたって開かれるDARPAのロボティクス・チャレンジです。これは、災害時の救援を使命とするロボット開発のコンテストで、目的地に到達し、ドアを開け、道具を使って作業するといった一連のタスクを自律的に最短時間で行うことを競うものです。ここで重要なのは、「人間が生み出した環境の中で」機能するロボットを作るということです。つまり、必ずしも人間のかたちをしている必要はない。ヒューマノイド型のロボットを開発するのは、アカデミックな経験と言えますが、特定の環境で機能するロボットを開発するのは、それとは別の課題であるということです。

Q. 大学でのロボット研究を効率的に行う方法論はあるのでしょうか。たとえば、長期的な研究を行いながら、随所で応用技術をスピンアウトするような研究の方法はありますか。

A. 研究において、どんな問題に対する解決策を探究しているのかはクリアーにしなければならないでしょう。とは言え、大学の研究には、たとえすぐにバリューが生み出せなくても、将来ロボット業界で仕事をする人材を訓練するという目的があります。発明し、イノベートし、記録し、立証するといったプロセスを経験することによって、社会に出た時に活かせるものがある。ただ、忘れがちなのは、何か解決策を生み出す場合には、その使い手の話を十分聞くことが大切だということです。ロボット研究には聡明な学生がたくさん関わっていることでしょうが、実際の使い手に話をしてそのフィードバックを盛り込まなければ、独りよがりなものしかできません。外科ロボットを開発しても、外科医の意見をよく聞いていなければ、使いものにならない。バリューを生み出すには、使い手への強い関わりが求められるのです。

Q. 日本は、製造現場での産業ロボットで優れた技術を生み出してきました。ロボット産業が盛り上がろうとしている今、日本が独自のリソースを使いこなしていないと見えることはありますか。

A.  ギャップが見えるのは、アントレプレナー的な試行錯誤を繰り返す方法論がないことです。たとえば、日本政府は介護用ロボット開発のための補助金を支給するとのことですが、これによってロボットのための市場をひとつ作り出すことになるでしょう。しかし、ここで洗練された解決策を生み出すためには、アントレプレナー的な方法論が不可欠なのです。最終的には数社に絞られることになっても、数10社の新興企業に出てきて欲しいものです。ただ、消費者向け製品を作ってきた大手メーカー企業でのロボット開発はアメリカに比べてもずっと盛んで、日本の消費者はロボットを受け入れることでは、きっと世界でもアーリー・アダプターになることでしょう。