「予期せぬ事態でも、そこに医師が居合わせることができるのです」 RP-VITAを訪ねて<その1> インタッチ・ヘルス社CEOユーラン・ワング氏インタビュー

医療関連のロボットを開発するインタッチ・ヘルス社は、遠隔地から医師が患者を診断したり現場とコミュニケートしたりするのを仲介するテレプレゼンス・ロボットを提供してきた。

昨年、アイロボット社から600万ドルの投資を受けた同社は、最新型のRP-VITA(アールピー・ヴィータ)にアイロボット社の自走技術を統合。病院内で人や障害物を避けながら目的地にたどり着き、医師が院内を回診したり、看護士とやりとりしたりするのをサポートする。医師の時間を有効に活用しつつ、まるでそこに医師がいるかのように機能して、細やかな医療を可能にするツールだ。今年FDAの認可を受け、現在すでに世界の6病院で利用されている。

インタッチ・ヘルス社は、ロボットに加えて、そのコントロール・ステーションやソフトウェア、ネットワーク・プラットフォームなども含んだ包括的なサービスを提供し、医療現場への先端テクノロジー導入に積極的に取り組むことで知られている。

インタッチ・ヘルス社があるのは、サンタ・バーバラ空港近くの新興企業が集まった地域。社員はおよそ200人。外見はこじんまりとしているが、社内はオープンスペースの気持ちのいい空間だ。その中に、病室を模した研修室やロボット製造の工場もある。

2002年に同社を創設したユーラン・ワング会長兼CEOに、ロボニュースがインタビューした。

ユーラン・ワング氏とRP-VITA

ユーラン・ワング氏とRP-VITA

Q. インタッチ・ヘルス社は、これまでも遠隔医療用のテクノロジーを開発してきましたが、そもそもこの分野に進出した理由は何ですか。

A. アメリカでは、医療をどこで受けるかによって質にムラがあります。十分な医療を受けられないことも多く、また費用も高い。これを解決するには、テクノロジーを用いるしか方法がありません。では、どんなテクノロジーか。それは、自律的に機能し、さらにコストの高い医師などスペシャリストの能力を広い地域で使えるようにすることの他にはないのです。

Q. 遠隔医療では、ラップトップ・コンピュータや固定したスクリーン上で医師と患者がコミュニケートするようなシステムも多く開発されていますが、なぜRP-VITAのようにロボットとして移動できるようにすることが必要だったのでしょうか。

A. RP-VITAによる遠隔医療は、ただのスクリーンを介したやりとり以上の意味を持ちます。これは医師の能力を代替するテクノロジーで、医師が病院内で行っていることをそのまま可能にするものなのです。たとえば、医師は院内を歩き回って複数の患者を見て回りますが、それがそのまま行えます。回診する前に、医師はたいていナース・ステーションに立ち寄って患者の様子についての報告を受けるのですが、それもできます。チーム医療の場合は、複数の医師とその場でやりとりしたり、病室の外に出て患者の家族と話をしたりといったことも、RP-VITAならば可能です。遠隔医療は、ベッドのそばにスクリーンがあればいいというものではないのです。

RP-VITAの身長は165センチ

RP-VITAの身長は165センチ

遠隔地にいる医師が、RP-VITAを使って病室を回診することができる

遠隔地にいる医師が、RP-VITAを使って病室を回診することができる

Q. RP-VITAの最終的なかたちは、どのように決まったのでしょうか。

A. RP-VITAは、人間を表現するものです。身長の5フィート5インチ(約165センチ)は、患者が座っていても立っていても、またベッドに横たわっていても違和感のない高さです。外観は性別としてはニュートラル(中立的)で、バランスがあり、さらに相手に受け入れられやすく、かつ敬意を持たれるような雰囲気を持つことが最低ラインでした。ただし、人間的な性質を表現しながらも、あまりに人間に似たものにしようとは考えませんでした。ヒューマノイドのような外観を目指した挙げ句に失敗すると、返って相手に敬遠される結果にもなりかねないからです。

Q. それでも、スクリーンが振り向いたりする様子は、本当に人間を感じさせますね。

A. RP-VITAが人間的なふるまいを見せるという意味では、ふたつの点に留意しました。ひとつは、頭に相当するスクリーンが動くこと。たとえば4人など複数人で話をする際に、RP-VITAが誰かの方を振り向けばコミュニケーションの質は向上します。ふたつめは、多方向に移動できることです。車輪と違って、斜め歩きができる。これは人間を感じさせるだけでなく、ベッドや医療機器が並んだ狭いICU(集中治療室)のような場所でも、医師と同じように動き回れることを可能にします。

Q.  RP-VITAにはアームがありませんが、なしでいいと判断したのですか。

A. ただ患者に触れるという目的のためだけならば、アームは不要です。今や医師が患者に触れることがあるとすれば、それは一種の顧客満足感のためであって、実際の診断のためには超音波診断装置の方がよほど役に立ちます。RP-VITAは肩の部分にポートがいくつかあり、超音波診断装置、電子聴診器などが接続可能です。生体信号のモニターもできます。もちろん、ドアを開けたり物をどけたりといった目的のために使えるアームがあればいいとは思いますが、アームのコストは高い。アームがないのは、コストとバリューとを比べた結果です。

RP-VITAの側面にある各種ポート

RP-VITAの側面にある各種ポート

Q. 実際の現場で、人の反応などを試したりしたのですか。

A. 1年以上前から何度もテストをしました。棒にスクリーンが載っているようなかたちのものも作りましたが、これは反応がよくなかった。また廊下を自走する際に、どのくらいの余裕を取って人と行き交ったり通り抜けたりするかも改良した点です。3インチ(7.6センチ)ほどしかないと、不自然で失礼です。人間的な力学というか、エチケットの面で受け入れられるのはどんな振るまいかについては、いろいろな微調整が必要でした。

社内に設けられた研修室は、病室そっくりに作られている

社内に設けられた研修室は、病室そっくりに作られている

Q. ロボット開発のスピードは速くなっていますが、ハードウェアとしてRP-VITAの寿命はどのくらいなのでしょうか。

A. 進化で重要なのはソフトウェアです。RP-VITAは、コンピュータ処理能力の部分については、システムがどんどん複雑化しても大丈夫なように余裕を持たせています。ソフトウェアはクラウドからダウンロードしてアップグレードするしくみです。何年も持つと見ています。

Q. たとえば、どんな機能を加えたいと考えていますか。

A. 医師の命令なしでも、自分で判断して患者を見に行くといったような思考能力があれば、理想的です。人手が少なくなる夜間には役立つ機能でしょう。また、医師が回診をする際にも、どの患者から見回るべきかを、その時々の病状を判断して教えてくれるようになるのもいい。

Q. RP-VITAを導入した病院では、どんな調整が必要になるのでしょうか。

A. 主にワークフロー(仕事の手順)や時間の面での調整が必要になります。これまでならば、専門医師がいない小さな病院から大病院に患者を移すことが求められたケースでも、RP-VITAがあれば、患者はそこにいながら医師の診断を受けられます。そうすると、これまでのやり方を再考する必要が出てくる。医療現場に関わる人々がRP-VITAの機能と効果を実感できれば、従来のやり方を変えてもいいと感じられるようになるでしょう。

Q. RP-VITAはどのような課金体制で利用されるのでしょうか。

A. インタッチ・ヘルス社のビジネスモデルは、ただロボットを開発するだけでなく、遠隔医療全体のソリューションを提供することです。RP-VITAなどの遠隔医療ロボットと一緒にクラウドサービス、アプリケーション、コントロール・ステーションのインターフェイスなども提供しています。常時稼動するサポートセンターも運営しています。ロボットはレンタルされ、ソリューションも含めた料金は1ヶ月あたり5000〜7000ドルとなっています。

Q. ロボット開発会社として、それで採算は合いますか。

A. ロボットを製造して実際に広めていくには、多大なコストがかかります。正直なところ、月額5000〜7000ドルという料金体系はかなり努力した結果です。ただ、RP-VITAはまだ生まれたばかりで、市場最初のスマートフォンのようなもの。これからまだまだ進展していくはずです。アメリカだけを見ても、病院は5000カ所もありますから。

Q. 大病院では、何台くらいのRP-VITAがあれば適切なのでしょうか。

A. たとえば脳外科のICUで1台といったように、エリアごとに配置されば理想的です。それを数人の医師が共同で利用する。現在は予約システムがまだなく、医師の間で連絡を取り合って利用しています。

Q. 日本市場へも代理店経由で進出していますね。

A. 日本では、脳卒中で亡くなる方が多いと聞きます。脳卒中は、いつ手当をするかによって、完治から死亡まで結果が大きく異なります。RP-VITAのような遠隔医療ロボットは、そうした予期せぬ事態に見舞われた際に、医師がそこに居合わせることを可能にするのです。

ロボットは社内で製造

ロボットは社内で製造

Q. ところで、医療現場にはすでにさまざまなロボットが登場しています。ダビンチのような手術ロボットもあれば、カルテやシーツなどを自律的に運搬するロボット、薬を容器に入れるロボットもあります。こうしたロボットの間に何らかの共通したプラットフォームが作られるべきだと考えますか。

A. 多分、別のシステムのまま進んでいくでしょう。同じロボットと言っても、手術ロボットと運搬ロボットとでは、飛行機と電車くらいの違いがあります。同じプラットフォームで運営するのは、未来ではあり得るかもしれませんが、現時点では無理でしょう。これまでも、ロボットのための共通OSを試した企業はありましたが、うまくいかない。センサーや電子、機械のインターフェイスなどでは標準化が可能でしょうが、ロボット自体についてはないでしょう。

Q. ロボット産業全体については、どんな見方をしていますか。近い将来、ロボットがどんどんわれわれの生活に入ってくると予想していますか。

A. ロボットは、ある特定の必要性を解決するというバリューが認められてこそ受け入れられるもので、その点では他の製品と何ら変わるところはありません。ただ、ロボットはコスト削減のための手段だと思われがちですが、実際には人間が作業するよりも優れたクオリティーを継続して提供できるところに意味があります。ことに製造現場で利用されるロボットはそうです。もちろん、今後は日常の中で人間と一緒にいる、あるいは人間の生活に統合されるロボットが増えていくことでしょう。RP-VITAもすでに30万人の人々と接触しています。しかし、「ロボットの襲来」と呼ばれるようなマクロなやり方ではなく、あちこちから少しずつという方法で入ってくるのだと思います。

サンタバーバラのインタッチ・ヘルス社本社

サンタバーバラのインタッチ・ヘルス社本社

Q. あなたは、ロボット開発者として非常にユニークなキャリアを歩み、かつ成功を収めてこられました。若いロボット研究者、開発者へアドバイスを下さい。

A. ロボットの開発で重要なのは、テクノロジーはもちろんのこと、その市場を深く理解することです。そして起業家になるのならば、根気よく粘り続けることが大切です。回りの人たちは、「そんなことは無理だよ」と信じてくれませんし、あまりに大変なので、あきらめたくなるものです。けれども、自分を信じてやり通さなくてはならない。また、会社を運営するには、優れた人材を適任の職に配置し、そして正しいビジョンを持って率いていくことが必要です。そのビジョンに人々が乗ってくるようにしなければならない。

Q. インタッチ・ヘルス社のロボット・テクノロジーは、他の分野にも応用できるものでしょうか。

A. 私は、医療分野ですでに25年もの経験を積んできました。医療ロボットの核心技術におけるドキュメンテーションや画像処理などの分野でも10年以上の経験があります。他の分野へも応用可能かもしれませんが、自分の専門は医療だと心に決めたのです。

ワング氏は、手術ロボットAESOPを開発し、コンピュータ・モーション社を創設。2003年に同社をインテューイティブ・サージカル社に売却した。2002年にインタッチ・ヘルス社を設立。カリフォルニア大学サンタバーバラ校で、電気工学博士号を取得。同校では、中村仁彦東京大学教授(現)の教え子でもあった。

ワング氏は、手術ロボットAESOPを開発し、コンピュータ・モーション社を創設。2003年に同社をインテューイティブ・サージカル社に売却した。2002年にインタッチ・ヘルス社を設立。カリフォルニア大学サンタバーバラ校で、電気工学博士号を取得。同校では、中村仁彦東京大学教授(現)の教え子でもあった。