ウィロー・ガレージとスータブルのこれからはどうなるのか?

ご存知の方も多いと思うが、ここ最近のロボット界の大ニュースは、ウィロー・ガレージのほとんどのスタッフがスータブル・テクノロジーズ社に吸収されることになったというもの。

もともと、スータブル社こそ、ウィロー・ガレージのスピンアウトのひとつだったのだが、母体がスピンアウトに吸収されるというわけだ。スータブル社は、テレプレゼンス・ロボット「ビーム(Beam)」を開発している。

ウィロー・ガレージを創設し、スータブルのCEOも務めているスコット・ハッサンが『IEEEスペクトラム』でインタビューに答えて、今回の吸収の背景を語っている。その内容を紹介しよう。

スータブル・テクノロジー社のサイトより

スータブル・テクノロジー社のサイトより

それによると、今回の吸収はリソースを集中させるためのもの。ビームは重要なテクノロジーでポテンシャルもあるが、スータブル社だけではそのリソースがまかない切れないと判断したという。

スータブル社がビームを発表したのは、約1年前。ウィロー・ガレージで開発された「テキサイ(Texai)」が元になっている。テキサイは、ウィロー・ガレージがPR2を開発する際に、インディアナ州に住むスタッフが遠隔地からでも開発に参加できるようにするために作られた。ハッサンは、それが非常に使い勝手がよく製造もしやすく、コストも値段も手頃であることに魅せられたという。発表当時に明らかにされたビームの価格は、16000ドルだった。

ビームに必要な研究は終えており、これからはスケール化を図る段階。そのために今までの100倍の人員が必要という。スータブル社は、ウィロー・ガレージからのスタッフを得て、短期的にはビームの製品化とさらなる開発に注力する見通しだ。

ビームの利用方法としては、リタイアーして身体が弱っても、まだまだ頭がしっかりしているような人々が、テレプレゼンス・ロボットを使っていろいろな仕事をしたり、アドバイスをしたり、検査をしたりするという図を描いているようだ。ロボットは、ある部分では人間の職を奪うかもしれないが、テレプレゼンス・ロボットによって居場所をシフトすることができるようになり、仕事をする人々は増えるとハッサンは見ているようだ。

一方、2006年にウィロー・ガレージを創設した際には、自律的なパーソナル・ロボットを作ることを夢見ていたが、それが大変に難しく、また市場を探すのも困難だと痛感したという。PR2は今後もウィロー・ガレージによってサポートされ、また在庫分の販売も続けられる。

このインタビューでは、パーソナル・ロボットの開発はどうなるのかについての明言はないものの、「コンピュータも現在の姿になるには何年もかかった。ロボットが生活の中に入ってくるまでに20〜30年かかるかもしれない。ともかくどこかから始めなければならない」と語っている。その上で、「コンピュータは人間のできないことができ、人間はコンピュータのできないことができる。物をつかんだりすることは、人間には簡単でもコンピュータには難しい。ロボティクスは、現実的にはハードウェアではなくてソフトウェアの問題。全体のパズルの中で最も重要なのは脳。だからいつも人間を組み込ませておきたい」とも説明している。現時点では、完全に自動化されたロボットよりも、人間が介在するコンピュータと言えるテレプレゼンス・ロボットがふさわしいということだろうか。

ただ、インタビューの中で、ハッセンはビームをゲートウェイ・ドラッグ(入門薬品)にたとえている。市場でパーソナル・ロボットのエコシステムが立ち上がるまでの間、ビームを先行させ、より進んだロボットを現実世界に招き入れるための誘引剤としたいという考えだ。

世界の大学のロボット研究室でPR2の使い方をマスターしている学生たちがいることは、ウィロー・ガレージの実績だという。ビームが入門薬品の役割を十分に果たしたら、スータブル社とウィロー・ガレージの優れたリソースを使って、ぜひパーソナル・ロボットの開発に挑んで欲しいものだ。

ウィロー・ガレージは、今年2月に商業化の道へ進むことを明らかにしていた。実はロボニュースでは、数ヶ月前にウィロー・ガレージCEOのスティーブ・カズンズに今後の計画を聞いていた。詳細は語ってはくれなかったが、その時の話では、ともかくロボットを実際の生活の中で広めなければならないと言っていた。そのために、現在家1軒分の値段にも相当するロボットの価格が、車1台分くらいに下がることが必要だということだ。

潜在的な可能性のある市場を特定するためには、スタンフォード大学のd.schoolの協力も得て、同校が用いている「需要発見」手法を用いてすでにそれを特定したようでもあった。これは憶測に過ぎないが、業界関係者の話も含めると、家庭向けサービス業界、あるいは介護関係に狙いを定めているのではないかとも思われた。

日本では介護ロボット開発のかけ声が高いので、ウィロー・ガレージが同じ市場に入ってくるのならばおもしろくなりそうだったのだが、その後の検討段階で再び方向転換を図ることになったのだろう。

折しも、アメリカでは今、テレプレゼンス・ロボットが花盛りである。企業用、医療分野、家庭用とさまざまなタイプのロボットが発表されており、初期のテレビ会議同様、こんなロボットにも抵抗を感じないアメリカ人によって急速に受け入れられていくものと思われる。

驚きのニュースだが、スータブル・テクノロジーズ社とウィロー・ガレージのこれからと、そしてその先へ期待を向けたい。