「UBR-1のプラットフォームは、何10億ドルもの規模になるビジネスの一部なんです」 アンバウンデッド・ロボティクスCEOメロニー・ワイズ インタビュー

数々のスピンオフ企業を出したウィロー・ガレージ。その最後のスピンオフがアンバウンデッド・ロボティクス社だ。創業者4人は、すべてウィロー・ガレージの出身者。そのたった4人が、1年足らずの間に1本アームのロボットUBR-1(ユーバー・ワン)を開発して、関係者を驚かせた。同社のオフィスを訪ねて、今後の計画などについて聞いた。(UBR-1発表時の参考記事はここに。)

アンバウンデッド・ロボティクス社のオフィスで。立っているのが、CEOのメロニー・ワイズ。

アンバウンデッド・ロボティクス社のオフィスで。立っているのが、CEOのメロニー・ワイズ。

Q. まずUBR-1のハードウェアのかたちをどう決めたのかを教えて下さい。

A. UBR-1は、実世界でのタスクを行うことを前提としています。つまり、私やあなたがいつもやっているような、人間がやる仕事です。その中にはアッセンブリー作業もあれば、カウンターの上で作業をすることもあるでしょう。人間がやることならばUBR-1もできるという設定です。高さが変えられるのもそのためです。床から何かを拾ったり、棚にモノを入れたりする。腰を曲げることはできません。そのためには複雑な設計が必要で、ローコストなロボットを目指したためあきらめました。

Q. 高齢者の介護といったような特定用途を想定していないということですね。

A. そうです。それよりもロボットがいずれタスクをやることになる様々な分野を考慮しています。その意味ではUBR-1は有能なロボットです。もちろん、研究用にも使えますし、研究者が想定するようなビジネスのバーティカル(垂直統合されたビジネス分野)は、われわれもUBR-1を売りたい市場です。たとえば高齢者向けならば、テーブルの上から何かを取ったり、家の中で狭い廊下を無理なく動き回ったりもできる。産業分野では在庫を補充したり、ルームサービスをやったりする。UBR-1は数年先ではなくて、10年後まで見据えてできるだけたくさんのタスクがこなせるようなプラットフォームなのです。スペックを考える際には、将来の応用例をすべて書き出しました。

Q. そうしたことは、外部のマーケティング専門家らと一緒にやったのですか。

A. 自分たちでやっています。ウィロー・ガレージにいた頃に、顧客が何を求めているかを探る「需要発見(need-finding)」をよくやりました。ホテルや老人介護施設へ出かけて行って、「もしロボットがあったら何に使いたいか」といったようなことを尋ねるのです。そこからずいぶん洞察を得ました。

Q. 価格は3万5000ドルですが、これはどう決めたのですか。最初にこの値段内に収めたいと設定したのでしょうか。

A. 顧客となる企業や大学の研究室にとって、ROI(投資利益率)を最大にしようと考えた結果です。3万〜7万ドルは、ロボットの値段としては「これなら投資してもいい」と感じられるマジカルな価格帯です。大学ならば、年間予算と照らし合わせて、3万5000ドルはだいたい大学院生1人にかかるコストです。10万ドルは出したくないでしょう。もちろん安ければ安い方がいい。

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Q. UBR-1が持ち上げる重量は最大1.5キロです。これはどう決めたのですか。

A. ひとつは、傍にいて威圧感を感じないアームのサイズは何かです。持ち上げる重量が大きくなればアームも太くなってしまう。アームが太くなると、人間が傍にいるのは危険です。もうひとつは、ジョージア工科大学が作ったリストを参考にしました。このリストは、高齢者がいる家での共通のタスクを数100項目挙げたもので、それを見るとそこで扱われるものの平均重量は1.5キロ以下だったのです。

1本のアームはいい妥協だった

Q. アームが1本しかないことも話題になっています。シーツを敷くといったような作業は、2本のアームがあるロボット1台よりも、1本アームのロボット2台の方がフレキシブルでやりやすいと、別のところで説明されていますね。

A.  産業的な環境では、平らなテーブル上の作業など、1本のアームで2本アームのロボットが行うことと同程度のタスクがこなせます。瓶の蓋を開けるといったことは、瓶を固定するしかけがあれば1本のアームで十分です。アームが1本ならば、コストも安くサイズも小さく、小回りの効くロボットになる。いい妥協だったと思っています。それに、ウィロー・ガレージのPR2のユーザーの多くは、アームを両方使っていません。UBR-1でアームが2本必要になれば、2台目を買ってもらえばいいですね。

Q. アームはずい分長いですね。

A. カウンターやテーブルの向こうにまでアームが届くようにしました。PR2 と比べると、ベースの幅に対するアームの長さの比率がずっと大きくなっています。

Q. もし、大手ロボット会社がUBR-1と同じような製品を作ろうとしても、彼らに真似できないものは何ですか。

A. デザインのエンジニアリングでは、現在いくつものパテントを申請中で、多くの工夫があります。また、ファームウェア部分はクローズドになっていて、真似できません。同じように見えるものは作れるかもしれませんが、同じように動かそうとすると難しいはずです。

Q. リシンク・ロボティクス社のバクスターとは、どう違いますか。

A. まず、UBR-1は可動型です。バクスターが手を延ばせないものでも、動いて取りに行くことができる。また、バクスターは重く固定されていて、そのためのアセンブリー・ラインや作業テーブルを準備する必要がありますが、UBR-1ならば小さくてフレキシブルなので、すでにある環境に合わせることができます。もっと言えば、毎日作業する場所が変わっても対応できます。バクスターには、UBR-1に搭載されているセンサー・スイート、3Dカメラ、ベース・センサーなどがありません。これを付けようとすると大仕事になるでしょう。UBR-1は、それらすべてを統合したひとつのロボットになっています。

マイクロな付け替えで拡張性を

Q. ロボットのハードウェアは、どのくらいの期間有効なのでしょうか。耐久性というよりも、新しいハードウェア技術が出てきた時に陳腐化するのをどう防ぎますか。

A.  UBR-1では、新しい技術がその都度統合できるように、将来を見据えたデザインをしています。まずグリッパーは代替可能です。また、センサーのある頭部には空洞部分を設けてあり、モデュールを替えられるようにしています。頭部とベース部分にはマウント・ポイントがいくつもあり、USBポートもたくさん付けました。明日、新しいセンサーが発売されてもすぐ付けられます。ハードウェア全体を作り替えるのは大変高くつきますが、マイクロな付け替えができるようにして、拡張性を確保しています。これもバクスターにはないものです。

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Q. ハードウェア面で、コスト上あきらめたものは何ですか。

A. フォーストルク・センサーは欲しかったものですが、価格があまりに高く、あきらめざるを得ませんでした。グリッパーも技術が進化途中で、まだまだ高い。それでベース・モデルにしています。いずれも、希望すれば追加で、あるいは別のものを取り付けることはできます。もちろんレーザーはもっと欲しい。回りを見渡せるようにするために、レーザーはどれだけあっても足りませんが、ロボットの中でセンサーのコストは最も高いんです。また、ハンド部分のカメラや指先センサーもあればいいですね。ハンド部分にはマウント・ポイントを付けるので、そこに無線カメラを取り付けることはできます。もちろん、しっかり内蔵したカメラには劣りますが、それでもサーボ制御して何が見えるのかを確かめる程度には問題はありませんし、他にもおもしろいこともできるはずです。とは言え、夢のロボットを作るのならば、センサーでいっぱいにするでしょう。

Q. 理想的なグリッパーはどんなものですか。

A.  UBR-1の2本指のグリッパーは、中間の妥協点を求めたものです。ただ、シンプルな二本指でも、機能的にはかなりのことができます。ロボット関係者の中には、巧緻性(dexterous)のあるハンドが欲しいという人もいる。また製造関係者は静電付着性や真空吸着性のあるハンドが欲しいと言いますね。

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UBR-1はプラットフォーム

Q. さて、UBR-1はプラットフォームであるとおっしゃっています。ディベロッパーがそれぞれに機能をプログラムできるということですね。どのようなプログラムが行われると想定していますか。

A. 軽産業(light industrial)と呼ばれるような分野での利点は大きいはずです。たとえば、製造現場で箱を持ち上げるとかネジを緩める、工作機械の部品を取り替える、医薬品ラボでウィルスを植え付けるといったようなことでしょう。つまり、今はスキルのある人たちが仕方なくそうした作業をやっていますが、UBR-1が作業を代行して、彼らが別のことに時間を使えるようにする。ユーザーにとって最も価値の高いのは、そうしたところです。

Q. ロボット用オープンソース・ソフトウェアのROSでは、開発されたプログラムが共有されましたが、UBR-1の場合はどうなるのでしょうか。

A. UBR-1ではクローズドなファームウェアの上に、ROSをミドルウェアとして採用しています。その上に、ディベロッパーがクローズドなアプリを書くことができるというしくみです。ただ、ROSのメッセージは公開することも可能です。つまり、オープンなアーキテクチュアとクローズドなアーキテクチュアが共存していて、企業機密に属する部分はクローズドにしたり、あるいはそれをライセンス供与したりできるということです。

Q. ロボット・アプリのショップも運営する予定ですか。

A.  長期的には、そんなこともできると考えています。オープンソース・ロボティクス財団(OSRF)のコミュニティーではすでにそうした動きがあり、アンドロイド・マーケットからタブレットにソフトウェアをダウンロードし、それでロボットを動かすということが可能になっています。すなわち、既存のインフラが使えるということです。アプリはスマートフォンだけではなく、現実の世界のものを動かせるわけで、ロボットに「これを箱詰めしろ」と指図するアプリも出てくるでしょう。こうなるともう、完全なマインド・シフト(発想の転換)が起こるはずです。なぜなら、自分の生活にエージェントが生まれるようなものですから。このアンドロイドの幅広さはiOSと比較されるところで、何のためのアプリがそのプラットフォームで使えるかによって、価値が分かれてくるでしょう。このアンドロイド・マーケットでうまく売れるロボット用アプリを生み出すことが重要です。

Q. ロボット・アプリを専門に開発するディベロッパーは出てきていますか。

A. 個人のディベロッパーでUBR-1 が欲しいと言ってくる人たちはいます。まだコミュニティーと言うほどには大きくありませんが、高いロボットを個人で手に入れたいという。こうした人がたくさん出てきて、ロボットがユビキタスになることがUBR-1の成功につながります。

Q. PR2は北陽電気製のレーザー・スキャナーとナビゲーション、UBR-1はキネクトとMoveItの組み合わせですが、さらに次のロボットはどんな構成になるのでしょうか。

A. 難しい質問ですね。おそらく、もう少ししたらロボットの背後にある技術は取り沙汰されなくなり、どのアプリを使うかということに議論が移行するのではないかと思います。それまでに少し時間はかかるでしょうが、ロボット開発のクールな表現はアプリになる。

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Q. ディベロッパーはかなり専門家でないとUBR-1のアプリは開発できないのでしょうか。

A.  現時点では、インターフェイスがまだ十分にユーザー・フレンドリーになっていません。ですから、コンピュータ・プログラマーでないと開発はできないでしょう。しかし、長期的には専門の訓練を受けていなくても、複雑なロボットであるこのUBR-1が動かせるようにしたいと思っています。腕を持って記憶させるような入力方法も、まだ単純な反復作業でしかできません。

Q. ジョイスティックででも操作できるのですか。

A. ベースの移動や頭部、背などの単純な動きは、ジョイスティックで操作可能ですが、アームを動かすには直観性に欠けます。そのためにはグラフィック・インターフェイスが必要です。その方が、ロボットのジョイントをうまく操作できます。

Q. UBR-1は「ヒューマノイド・ロボット」でしょうか。

A. そうです。聞き、見て、話し、アームもあり、人間の環境の中で動きます。そうは見えないかもしれませんが、擬人的にできているのです。そして、単なる見た目よりも重要なのは、傍にいても人が脅威を感じないように作られていることです。身長はあまり高くなく、人間がロボットをコントロールしているという感じを抱かせるようにしています。また鮮やかな色遣いはフレンドリーな印象を与えますが、ロボットの中でも動く部分を色付けたものです。それでロボットが動く時にわかるようにしました。そういった繊細なデザインを施して、非言語的なコミュニケーションを図ろうとしています。

4人が同じ方向を向いていた

Q. ところで、ウィロー・ガレージの最後のスピンアウトとして、アンバウンデッド・ロボティクスが設立されたのは2013年1月です。UBR-1が発表されたのは10月。こんなに速く開発できた理由は何ですか。

A.  ただ集中あるのみです。そして、われわれ創設者4人がそれぞれに、ロボットに関する専門知識が深く、経験もありました。私とエリック(・ディーア)は、メカニカル・エンジニアとして、二人で機械設計をすべてやりました。CTOのマイケル(・ファーガソン)とデレック(・キング)は電気設計をし、ソフトウェア、ファームウェアを書きました。それに、自分たちでスペックを考えましたから、ともかくその目標に向かって仕事をし、試して調整するというのを繰り返したのです。また、よく大企業にありがちな面倒なこともありませんでしたから。つまり、会議とか条件変更といったようなことです。条件変更があると、それだけで何ヶ月も遅れを取ります。われわれ4人は、常に同じ方向を向いていた。少人数がこうして働けるところが、スタートアップの利点です。

アンバウンデッド・ロボティクス社の4人の共同創設者。左前から時計回りに、メロニー・ワイズ(CEO)、マイケル・ファーガソン(CTO)、デレク・キング(主任システムズ・エンジニア)、エリック・ディーア(主任機械エンジニア)(http://spectrum.ieee.org/より)

アンバウンデッド・ロボティクス社の4人の共同創設者。左前から時計回りに、メロニー・ワイズ(CEO)、マイケル・ファーガソン(CTO)、デレク・キング(主任システムズ・エンジニア)、エリック・ディーア(主任機械エンジニア)(http://spectrum.ieee.org/より)

Q. ウィロー・ガレージにいた時とは、ずい分やり方が変わったのではないですか。

A. ウィロー・ガレージにいたからこそ、ともかく完成品を作りたいという意欲が生まれていたのは確かです。ウィロー・ガレージではずっと調整を繰り返すことが仕事でしたから。

Q. 研究者たちはUBR-1を歓迎すると思いますが、企業に向けて今後どのように働きかけていく予定ですか。

A. まず資金集めです。現在、シード資金を受けていますが、UBR-1を生産するための資金をシリーズAとして募ります。そして今後12〜18ヶ月の間に、個人のディベロッパーや企業のラボに向けて販売を行います。同時に、企業顧客と共に実世界のタスクを行うためのアプリを開発したいと考えています。

Q. 企業には、すでにロボットのアプリが開発できる人材がいるという前提ですか。

A.  そうしたインフラができていくことが理想です。最初は、顧客側にプログラマーがいる、あるいはわれわれが一緒になってアプリを開発する必要があるでしょう。しかし、時間が経つにつれてソフトウェアも向上し、プログラマーでない人々もロボットのアプリが開発できるようになると考えています。

Q. UBR-1の製造はどこで行うのですか。

A. モーターやコンピュータなどの汎用品以外は、アメリカで作ります。シートメタルや機械装置は地元か、あるいはアメリカ国内で製造します。複雑なロボットなので、アッセンブリーはロボットをよく知る技術者でないとできません。

Q. 資金集めはどうですか。ベンチャー・キャピタルは、プラットフォームであるというこのロボットをすぐに理解しますか。

A. ロボットの可能性に対しては期待しているものの、自分たちだけでは知識がないということが多いです。そのため、「ロボットに詳しい誰々に会ったか」とよく聞かれます。外部の人間の太鼓判が欲しいのでしょう。プラットフォーム・モデルは、時間の問題だと思います。どれだけディベロッパーが出てくるか。ロボットは、手っ取り早く始められるインターネット・サービスではなくて、何10億ドル規模の話ですから。スペースXのようなものです。

(*当初の記事では、タイトルおよび本文文末の「何10億ドル規模」についての記述が明解ではありませんでした。現記事は訂正済みです。)

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