ロボット開発の経験者がいるハードウェア・アクセラレーター、ドラゴン・イノベーションに聞く

ハードウェアのスタートアップを対象としたアクセラレーターが増えている。

アクセラレーターとは、経験のない起業家らを専門家がサポートし、失敗なく市場への道のりを歩めるようにしてくれる組織のこと。ソフトウェア開発では数多くのアクセラレーターがシリコンバレーを中心に運営されてきたが、それが今、ハードウェアの領域まで広がってきた。ハードウェアにはもちろんロボットも含まれる。

そうしたハードウェア・アクセラレーターのひとつ、ボストンのドラゴン・イノベーションは、アイロボットで製品開発担当やエンジニアリング担当の副社長などを歴任したスコット・ミラー氏らが共同創設した。プロトタイプはあっても、そこから製造までどうやって漕ぎ着けばいいのか、ミラー氏のもとにはそうした相談が数々やってくる。

ハードウェア・アクセラレーターとは、どんなサポートをしてくれるのか、ミラー氏に聞いた。

ドラゴン・イノベーションのサイト。いく種類かのサービス方法がある。(http://www.dragoninnovation.com/より)

ドラゴン・イノベーションのサイト。いく種類かのサービス方法がある。(http://www.dragoninnovation.com/より)

Q. 最初にドラゴン・イノベーション社を創設したいきさつを教えてください。

A. 私は幼い頃からハードウェアに関心があって、ドライバーを片手によくモノを分解していました。マサチューセッツ工科大学の学生時代は、6軸で水中で泳ぐマグロ・ロボット「ロボツナ」の研究に携わりました。卒業後はディズニー・イマジニアリング社の研究開発部門に入り、ロボット恐竜を作ったりしていました。その後アイロボット社で10年を過ごし、ルーンバやスクーバ、ルージなどの製造担当を務めました。

Q. ロボットのビジネスとしては、もっとも中心のところを経験されてきたわけですね。

A. 5年前にドラゴン・イノベーションを創設したのは、ちょうどハードウェア革命が起こりかけている時です。起業家やスタートアップが、これまで大企業の独壇場だったハードウェア製品を作ろうとする。ところが、プロトタイプまでは作れても、その後どう生産に乗せればいいのか、どの工場に製造を頼めばいいのかといったことに経験がない。そうした彼らを助けられると思ったのです。

共同創設者でCEOのスコット・ミラー氏

共同創設者でCEOのスコット・ミラー氏

Q. 今まで関わってきた会社は何社くらいありますか。またそのうちロボット関係はどのくらいありますか。

A. サポートしてきたのは100社くらいでしょう。ロボットをセンサー、アクチュエーター、プロセッサーの少なくとも2つを備えていると定義すれば、そのうち5〜10社がロボット関係です。ロモーティブ社シフテオ社ペブル社などが含まれます。またスタートアップだけでなく、既存の企業が生産を増やしたいという場合にも対応します。

Q. 起業家たちが経験を持たない生産までのプロセスとは、どんなことでしょうか。

A. 機能するプロトタイプを作った後には、製造用の設計、アッセブリーのレビュー、コスト計算、工場の選択、品質管理計画、製造計画、製造サービス契約の交渉などが必要です。ドラゴン・イノベーション社は、そうしたステップを追ってサポートをします。

Q. サポートする企業は、どんな基準で選んでいますか。

A. 一部医療関連もありますが、基本的には一般消費者向けの製品であることが条件です。ただし、自動車のような大型投資が必要なものは除きます。そして、製品のコンセプトを証明できるようなプロトタイプがすでにあることも必要です。その上で、それがコスト、品質、スケジュールの点で実現できるものかどうかを検討します。たとえば、クリスマス・シーズンに間に合わないようならば、かなりの売上をあきらめることになりますから、そのための出荷日を守れるのかどうかといったことを計算します。もちろん、どんなチームなのかも重要です。一緒に楽しく仕事ができる相手かどうか。さらに製造個数は1000個を最低ラインとしています。たいていは5000個が目標です。それらの条件を満たすならば、ドラゴン・イノベーションが、起業家にマーケティングや技術の知識の面で自信を持ってもらえるようにサポートします。

Q. オフィススペースも提供するのでしょうか。

A. いいえ。起業家らが仕事をするのは自分の会社です。私自身は、やはりボストンにあるアクセラレーターのボルトのジェネラル・パートナーでもありますが、あちらでは1000平方フィートの仕事場があります。起業家は、そこで他のチームと並んで製品開発をし、プロトタイプを作るための機械も揃っています。ボルトがサポートするのは、ドラゴン・イノベーション社に来るよりもまだ早い段階にあるスタートアップと言えます。

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ドラゴン・イノベーション社でのミーティング風景

Q. ドラゴン・イノベーション社も、当初は製品開発の部分に関わっていたようですね。

A. そうです。けれども、製品開発をサポートする組織は他にもあります。それよりも、われわれのチームの強みである製造知識を提供することに注力するようになりました。現在は、そうしたその部分の需要がかなり高くなっていますから。

Q. プロトタイプを作った起業家がやってきたとしたら、具体的にどんな点を検討するのでしょうか。実際のステップを少し説明して下さい。

A. まずは、最終的なゴールが何かを共有します。そして、どんなパーツからできていて、それらをどう製造するのかといったアッセンブリー・レビューを行います。射出成形を行う場合は、それに合わせた設計上の制限もあります。パーツの厚みはどのくらいになるのか、裏の構造はどうなのか。その際に見ているのは、各パーツ自体の製造方法と、パーツをどう組み合わせるのかの2点です。組み合わせ方法はひとつしかないのか、別の方法があるのか、どのように噛み合わせるのかといった点です。

Q. 外見は作れても、実際の製造となると裏のしくみも大切になりますね。

A. そうです。起業家が美しくデザインしてきても、実際には作れないというものもよくあるのです。本来は、そうした検討が製品開発のできるだけ早い時点で行われることが望ましい。

Q. アッセンブリー・レビューの後は、どんなことを検討しますか。

A. コストをかなり深く算出していきます。材料、機械工具、製造ラインごとの労賃、輸送費などを漏れのないように見ます。ワイヤーを忘れていないかといった点まで、この分野で30年の経験のあるエンジニアリング担当の副社長がいますから、彼といっしょに検討します。ここで製造要素を網羅したコストが出てきます。

Q. そのあたりは、経験がないとわからないことですね。

A. それが終わると、今度は一緒に中国へ行って工場を見学します。だいたい3〜5工場のあたりをつけるのですが、工場側でそれは製造できないと言ってきたりすることもありますから、少なくとも3工場が最終候補として残るようにしています。そして現地では実際に工場の中を見せてもらい、工場側の人間にも直接会ってもらいます。そうして最終的に製造を行う工場を決めるのです。

Q. 最終的には、起業家自身が自分の目で見て工場を選択するわけですね。

A. ここではっきりさせておきたいのは、ドラゴン・イノベーション社は仲介業者ではないということです。つまり、製造を請け負って工場へ発注して、そのキックバックを利益として得ているのではありません。そうすると、起業家側には本当の材料費や製造費がわからなくなってしまいますし、後に工場を変えたいと思っても簡単にできない。われわれのサービスにおいては、起業家の会社と工場とが直接製造委託の契約をします。

Q. 大企業ならば、こうしたステップは自社内で行ってきたことだと思います。そうした企業でのやり方とドラゴン・イノベーション社でのやり方に違いはありますか。

A. ハードウェアの製造には、電気エンジニアリング、機械エンジニアリング、インダストリアル・デザイン、品質管理、コスト、ソーシング(材料、部品調達)など、非常に多岐にわたる知識が必要です。起業家がこうした知識を持つ人々を見つけてくるのも大変ですが、雇ってその給料を出すのも大変でしょう。そもそもそうした人々を常任で雇っておく必要もない。ドラゴン・イノベーション社には22人のスタッフがいて、人を雇うことなしに知識が手に入るわけです。ですから、コスト的には効率的です。

Q. その22人はドラゴン・イノベーション社の社員ですか、それとも外部アドバイザーのような人々でしょうか。

A. 全員社員で、ボストン、上海、深圳の拠点に分散しています。いずれサンフランシスコにも事務所を設ける計画です。

Q. ドラゴン・イノベーション社に依頼するとなると、どのくらいの費用が必要ですか。

A. サービスによって異なります。ドラゴン・イノベーション社では独自のクラウド・ファンディングのプラットフォームも運営していますが、そのサポートは固定料金で5000ドルです。そこに含まれるのは、先ほど説明した製造のための設計、アッセンブリー・レビュー、コスト計算に加えて、マーケティング戦略を立て、サーチエンジン・マーケティングやPRなども行って、クラウド・ファンディングのプロジェクトをできるだけ多くの人の目にとまるようにします。そして、目標額を達成することができた場合には、その5%をフィーとして受けとります。この部分は、他のクラウド・ファンディングのプラットフォームと同等です。

ドラゴン・イノベーション社のクラウド・ファンディンのプロジェクト例

ドラゴン・イノベーション社のクラウド・ファンディンのプロジェクト例

Q. その後のサービスもあるのでしょうか。

A. 製造に入ったら、固定料金で請け負う場合と、月ごとに契約する場合があります。後者の場合はドラゴン・イノベーション社のスタッフが中国の工場に張り付いてコストやソーシング、品質管理などのプロジェクト管理を行います。この場合は、月額1万〜1万5000ドル程度です。起業家はアメリカと中国の両方に同時にいることは難しいでしょうが、その部分をわれわれが両国でサポートするということです。

Q. 現在は、3Dプリンターなどが出てきて、誰でも簡単に製造ができるようになったと言われていますが、3Dプリンティングでは製造数が限られています。従来型の製造現場でも、今は料金やスピードの面で変化はあるのでしょうか。

A. 機械工具のコストはあまり変わりません。まだまだ中国の方が安い。確かに3Dプリンティングはそのうち数100単位で製造できるようになり、射出成形を使わなくてもよくなる日が来るでしょうが、まだそうではない。ただ、今は3Dプリンティングと従来型の製造の中間に位置するような製造方法もでてきています。たとえばプロト・ラブズ社という会社がありますが、同社では非常に短時間で射出成形パーツを作ることができるようになっています。

Q. ところで、クラウド・ファンディングはハードウェア製品を作るために適していると思いますか。

A. かなりパワフルなツールだと思います。これまでのハードウェア製品は、まずは製造してみてから売ろうとしたわけですが、そんな開発の方法が変わった。クラウド・ファンディングで市場の感触を探り、熱心なコミュニティーができれば最初に製造資金を集めることが可能になったからです。同時にどの程度製造するのかの見当もつくようになった。ただ問題は、ソフトウェアの人々がクラウドにつながるモノを作ろうと入ってきたりする際に、ハードウェア製造面で知らないことが多すぎるということです。ハードウェア製造でクリアーしなければならないバーはかなり高い。それで、先に資金は集まったものの、ちゃんと論理的な計算をしていたなかったためにプロジェクトが頓挫するというケースもよく起こっています。

Q. クラウド・ファンディングで成功すれば、ベンチャー・キャピタルからの資金を集める際にも有利だそうですね。

A. 両方向あります。つまり、クラウド・ファンディングで成功したことでベンチャー・キャピタルから資金を得られやすくなる場合と、すでにベンチャー・キャピタルから資金を得ているが、さらに追加で資金を集めたいとか、マーケティングをしたいといった場合にも、クラウド・ファンディングが利用されている。ただし、IP(知的財産)の面で繊細な内容があるものは、クラウド・ファンディングに出さない方が得策です。

Q. アクセラレーターは、サポートの代償としてスタートアップの未公開株を取得することもあるようですが、ドラゴン・イノベーション社の場合はどうですか。

A. ケース・バイ・ケースです。キャッシュがない場合は株でもかまいません。ともかくゴールは製品が成功を収めることなので、柔軟に対応します。

Q. 最後に、ロボットの起業は増えていますか。

A.  われわれがアイロボットで一般消費者向けの製品作りに携わった経験が役に立っていますが、今なおロボットは難しい技術です。電子回路をただプラスティックの箱で覆えばいいというものではなく、モーターがあり、ギアがありと複雑です。それでもロモーティブ社やダブル・ロボティクス社などのように、ロボット技術で起業しようというトレンドは、確かにあります。ロボットの将来については、非常に楽観しています。