「そのうち、グーグルの自走配達車からロボットアームが出てくるかもしれません」 ニューヨークタイムズ記者 ジョン・マルコフ氏 インタビュー その<1>

ニューヨークタイムズの科学記者であるジョン・マルコフ氏は現在、ロボットに関する著書を執筆中である。グーグルがロボット企業を数々買収していたというニュースを最初に報じたのも、マルコフ氏だった。シリコンバレーに育ち、長い間テクノロジー、コンピュータ・セキュリティーの分野をカバーしてきた有名記者である同氏がなぜ今、ロボットに注目しているのか。それを尋ねに行った。

ジョン・マルコフ氏は、ニューヨークタイムズのシニア・ライター。1976年からテクノロジーを追うベテラン。

ジョン・マルコフ氏は、ニューヨークタイムズのシニア・ライター。1976年からテクノロジーを追うベテラン。

Q. ニューヨークタイムズの記者として長年にわたってテクノロジー業界を追ってこられ、その後科学記者に転向。そして最近はロボット分野を精力的に取材されています。なぜロボットに注目されているのでしょうか。

A. 基本的には新しいことがやりかったというのが理由です。当初は、科学研究がコンピュータによってどう変化しているのかを追って本を書きたかったのですが、それでは広すぎることに気がついた。それで焦点を合わせていった結果、行き着いたのがAIとロボットです。過去30年間にわたってパーソナル・コンピュータが与えてきたのと同じようなインパクトが、これからの10年の間にAIとロボットの分野から起こり、社会や経済を変えるのではないかというのが、私の仮説です。

Q. その場合のロボットとは、どんな定義をされているのでしょうか。

A. ロボットはAIのサブセットであるという、.非常に広い定義です。ヒューマノイド・ロボットも含めるし、またアップルのシリのような技術もロボットです。AIをパッケージ化したもの、人間の行動をまねるような機能のあるもの。映画の『ハー』にあったようなものです。

Q. 昨年、グーグルが8社のロボット会社を買収するというニュースを伝えられました。これはご自身にとって驚きでしたか。

A. 答は、イエスとノーの両方です。グーグルでロボット部門を率いるアンディ・ルービンは長年の知り合いで、彼がロボットに熱意を持っているのは知っていました。彼は昔から、パーソナル・コンピュータはいずれ足を出して、動き回るようになると言っていたんです。すでに何かを理解していたのでしょう。その意味では驚きはありませんでした。しかし、グーグルが8社買収のために推定5億ドルもの資金を投入したのは驚きでした。

Q. 買収額は5億ドルですか。

A. これまで明らかになった8社の、あくまでも推定買収額です。すでに買収したけれども発表していない会社もあるでしょうし、またこれからもまだ買収する計画のはずです。

Q. 執筆中の本は、どんな内容ですか。

A. アンディ・ルービンと、アップルの音声認識シリを開発したトム・グルーバーに焦点をあて、ロボットは人間に取って代わるのか、あるいは人間と同じようにふるまうようになるのかといったことを考察します。まだ回答は出ていません。

Q. グーグルのロボット企業買収記事を書かれた時、グーグルはロジスティクスでこれら企業の技術を用いることになると書かれていました。それは今でも変わりませんか。

A. 長期的に見ると、グーグルはかなりハイレベルでアマゾンと直接競合すると見ています。アマゾンは、配送センターやロジスティクスなどのインフラを構築することによって短時間配送に挑んでいますが、グーグルはそうしたインフラを築かずに同じことをしようとしているのではないか。すでに、グーグル・ショッピング・エクスプレスというサービスで、グーグルのショッピング・カーが街中を走り回っているのを見かけます。現在のところは、ドライバーが買物をして届けてくれるわけですが、そのうち自走車がショッピングに走り回り、車のトランクからロボットアームが出てくるかもしれません。10年ほど先まで考えれば、これはあながち的外れな予想ではないはずです。大規模な配送センターや倉庫のネットワークで起こっていることは非常におもしろく、配送センター自体がもうロボッティクス・システムと言ってもいいほどです。しかし、グーグルが目指しているのはそれをもっとスケールダウンし、都市部にも小規模な配送センターを設けて、迅速に配送を行うことなのです。

グーグル・ショッピング・エクスプレスの配達車。これがロボットになる?

グーグル・ショッピング・エクスプレスの配達車。これがロボットになる?

Q.  シリコンバレーでは今、ロボットの動きがさかんですが、これはソフトウェア関係者がロボットに移ってきているからでしょうか。

A. AI関係者など、多少の重なりはあるでしょうが、機械エンジニアリング関係者らはもともとシリコンバレーのエコシステムの一部であり、ひとつのサブ・カルチャーであるドットコムの人々とは異なったシステムにいた。ただ、これまでのロボット関係者は消費者向けの開発をしていたのではなく、多くは製造関係などの産業向けの開発に関わっていました。

Q. ロボットのハードウェアのデザインは、これからどんなものが出てくると思いますか。

A. ハードウェア上の課題はもう解決したと主張する人もいますが、私はそうは思いません。DARPAのロボティクス・チャレンジでも非常に多様なアプローチが見られ、そのどれをとっても完成していたものはなかった。例えば、ロボット・ハンドひとつとっても、人間の手と同じような器用さを備えたものは出てきていません。ヒューマノイド・ロボットがいいのかどうかもわからない。社会的なインタラクションを必要とするもの、人間とパートナーシップを組むロボットについては、ヒューマノイド型がいいと言われますが、ヒューマノイド・ロボットの完成はまだまだです。

Q. ハードウェアのかたちは用途によって個々に異なり、その結果多様なロボットが身の回りで動いているようになると思いますか。

A. 市場によって異なるでしょう。たとえば、ロボットアームは今、画期的な進歩が起こっている分野です。バクスターやユニバーサル・ロボット社の製品のように、人間にあたっても痛くないコンプライアンスを備えたものが生まれて、檻の中から出てきた。けれども、たとえば高齢者の介護といったような分野では、これまで考えられたなかったようなアイデアも出てくると思います。ジョージア工科大学でもMITでもヒューマノイド・ロボットの開発をしていますが、別のかたちもあり得る。もちろんまだ製品にはなっていませんが、話題になっているのは天井からロボットを吊るすというアイデアです。介護施設で繰り返し行われる作業は天井から行ってもいいのではないか。そんな再考作業も行われている。

Q. そうすると、ヒューマノイド型ロボットにこだわらなくていいいということでしょうか。

A. 両方あるのではないでしょうか。先だってあるロボット研究者と話していたら、おもしろいことを言っていました。彼は、ディナー・パーティーの後片付けが嫌いでたまらないという。それで。産業用のようなものでいいから、遠隔からコントロールできるモバイル・ロボットが皿を片付けたりなど、キッチンでいろいろな作業をするようになればいいのではないかと主張するわけです。人間がキッチンに入りたい時にはボタンを押してオフにする。ジオ・フェンスを張って、余計なところへ行かないようにしておくこともできるでしょう。つまり、人間が一緒にいるのは危険なロボットかもしれないけれど、これが一番ロボットを役に立たせる最速の方法だというわけです。値段の折り合いがつくかどうかは不明ですが、考えてもいいアプローチだと思いましたね。スタンフォード大学のアンドリュー・ング教授は、もう何年もかかってロボットに皿洗い機を使わせようとしていますが、うまくいかないのですから。

その<2>に続く。